【前編】花ひらけ、多彩感性の芽。挫折からニューヨークへ——井上幸子が見つけた「本物のリトミック」が持つ人間教育の力

2025.11.24

井上幸子先生スペシャルインタビュー(第1回)

 

音楽教育の常識を覆し、子どもの持つ無限の可能性——ドリームミュージックキャンプ(旧 日本こども教育センター)が掲げる「多彩感性」の芽を花ひらかせることをミッションに、事業を牽引する井上幸子先生。その壮大な活動の根源は、一人の若き音楽家が、単身アメリカで体感した「本物のリトミック」の衝撃でした。挫折から始まり、信念へと変わった幸子先生の情熱と、リトミックが持つ真の「人間教育」の力に迫ります。

 

挫折と「音楽遊び」からの脱却—本物への渇望

新潟から上京し、音楽短大へと進んだ幸子先生は、そこで最初の挫折を経験します。周りは幼少期から音楽の英才教育を受けてきた学生ばかり。自身の力のなさを痛感した幸子先生は、夜の専門学校で初めて「リトミック」を学びました 5。

しかし、日本で最初に出会ったリトミックは、幸子先生の求める「本物」ではありませんでした。

「でも、そこでのリトミックは、今思えば本物のリトミックではなくて、幼児に音楽で合わせて、たとえば、『きらきら星』に合わせて踊るとか、そういったようなものでしたよね 。(中略)今多くの方が思ってるように、リトミックっていうのは、いわゆる、音楽遊びっていう風に思っていたんですね 。」

子どもを教えるのは楽しいが、それが子どもの成長にどう繋がるのかが見えない。多くの人がリトミックを「音楽遊び」と捉える現状に、幸子先生は満足できませんでした 9。そのとき、運命的な情報が舞い込みます。

「あるところで、ニューヨークにリトミックを本格的に学べる学校があるっていうことを知った時、その写真を見て、そこで物凄くその学校に行きたいっていう気持ちがどうしても抑えきれなくなって、ニューヨークへ学びにいきました。」

幸子先生は、親に懇願し、「半年英語学校に行って、夏期講習に行ってくるだけ」という約束で渡米を果たします。

 

涙とともに体感した「本場のリトミック」の真髄

ニューヨークで、幸子先生はリトミック創始者であるダルクローズの直弟子、ヒルダ・シュースター先生(当時87歳)との運命的な出会いを果たします。

ダルクローズは、元々、音楽大学の学生に「もっと表現豊かに、自由に弾かせたい」という想いから、リトミックを考案しました。きちんとした服装が常識だったヨーロッパの時代に、「裸足になって動く」という画期的な手法を取り入れたのが始まりです。

この本場のメソッドを、幸子先生は体で体験し、強い衝撃を受けます 。

「私が自分でシュースター先生のリトミックを体験した時に、本当に嬉しくて楽しくて涙が出るような感じを覚えたというか。音楽と一緒に動くことで、すごく楽しい。」

この感動こそが、幸子先生がリトミックを一生の仕事として頑張ろうと決意した背景です。日本で出会った「音楽に合わせて踊る」だけの教育法とは異なり、リトミックは「本当に音楽ありき」で、音楽が持つ力を最大限に引き出し、それと一体となって体を動かすことで、内なる感性が解き放たれる感動がありました。

ダルクローズ先生からシュースター先生へ、そして幸子先生へと受け継がれた本物のリトミックの真髄は、現在、DREAM MUSIC Camp(ドリームミュージックキャンプ)を通じて日本中に広げられています。

花ひらけ、多彩感性の芽—リトミックが持つ「人間教育」の力

DREAM MUSIC Camp(ドリームミュージックキャンプ)がミッションとして掲げる「花ひらけ、多彩感性の芽」。この「多彩感性」とは、リズム感、表現力、発想力、思考力、集中力、自発性、協調性といった、自分らしく豊かに生きていくために必要なチカラを指します。

幸子先生は、本場のリトミックこそが、この「感性の芽」を育む最高の教育法だと断言します。

「リトミックには3要素があって、即興演奏、動きのムーブメントの部分、そしてソルフェージュっていう耳で聴くっていう3要素が全て揃ってる教育法であり、また、音楽家を育てるにもしても最高のメソッドですし、音楽をやらないとしてもその音楽以外のところでも花開く要素がたくさんあります。」

 

1. 集中力と「聴く力」の養成

リトミックでは、先生の生演奏のピアノに合わせて全ての活動が行われます。高い音が鳴ったら高いところで動く、止まれという音楽が鳴ったら止まる、といったルールは、常にピアノを聴いていないと実行できません。

「ピアノを聴いてないと全てができないことなんですよ。(中略)なので、まあ、とにかく集中力がつきますね。で、勉強でもスポーツでも、何をやるにもやっぱ集中力があるから絶対伸びます。」

 

2. 表現力と創造力の解放

リトミックでは、子どもたちの動きに制限がありません。「象さんになろう」というテーマーつとっても、鼻が長い象、足が太い象など、自分の持ってる感性をそのまま表現します。また、「忍者の即興演奏」のように、即興で音楽を作り出し、それに合わせて自由に動くことで、内面にある創造性や表現力が豊かに育まれます。

 

3. 協調性と社会性の土台

リトミックはグループでやっていくため、自然と協調性や協力する心が育ちます。

「みんなが止まっているのを見て自分で考えたり、お友達に自然とスカーフを取ってあげるなどの助け合う心が生まれます。(中略)リトミックは本当に人間教育って言われていて、なんかもう全ての五感、全てに働きかけて、また自分で考えること、表現することもあっていうことで、もう本当に素晴らしい教育法なんです。」

この人間教育こそが、子どもたちを「表現力豊かで可愛らしい、素直な、賢い子」に育て、後のピアノや楽器演奏にもスムーズに移行できる土台を築くのです。

 

聞き手・執筆:美濃部 哲也(M&I Inc.)

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